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お茶は“火入れ”が命。1℃の違いで味も香りも大きく変わる【TOCHIとCRAFT「加賀棒ほうじ茶」】

その土地にしかない希少な国産素材を使い、ものづくりに情熱を注ぐ土地の人々と一緒になって作る「TOCHIとCRAFT」。
前回記事でブランド担当者の話を聞き、私たち編集部も土地の方たちの想いやこだわりに触れてみたいと感じ、今回は「加賀棒ほうじ茶」のふるさと石川県に向かいました。
「加賀棒ほうじ茶」は、石川県にある油谷製茶で焙煎した茶葉を使っています。

まずは、そもそもの「加賀の棒ほうじ茶」について理解を深めるため、石川県工業試験場の笹木さんにお話を聞きました。

「加賀の棒ほうじ茶」について

笹木 哲也
石川県工業試験場の専門研究員。「棒茶の香味成分と機能性の解明」などを主な研究テーマとしている。

「加賀の棒ほうじ茶」は、石川県金沢市が発祥のお茶で、茶の葉ではなく“茎”を焙煎したもの。香ばしく甘い香りが特徴です。
 
加賀でお茶文化が根付いたのは前田家が藩主だった頃。九谷焼や加賀友禅と同じく江戸幕府への文化奨励策のひとつとして、お茶好きだった前田利常公が茶樹を植え、茶道文化を振興していったことがきっかけでした。その後、明治35年に石川県内のお茶屋さんが、利用していない茶の茎を焙煎し庶民向けに商品化したことが棒ほうじ茶の始まりです。
石川県は茶所ではなかったため、様々な焙煎方法にチャレンジすることができ、棒ほうじ茶が広がっていったと考えられます。
一般的にお茶というと“葉”をイメージしますが、実は葉よりも“茎”の方が焙じる時の独特な香りが出やすく、科学的にも証明されています。ほっとする、安らぐ、懐かしい…といった香りは棒茶の最たる特徴といえます。

左が葉ほうじ茶、右が棒ほうじ茶


次に、油谷製茶に向かいました。

大正7年より代々受け継いできた伝統とこだわりを、どのように「加賀棒ほうじ茶」に込めていったのか、商品化にどんな想いを抱いたのか、3代目である油谷社長に聞きました。

油谷 祐仙
油谷製茶3代目。焙煎からブレンドまで、すべての工程において自らの五感で確かめ、質の高いお茶を生み出している。

お客様に喜んでもらえることが一番大切

ポッカサッポロからペットボトル商品に使う茶葉を相談されたのは、2015年のことですね。最初はもちろん、お断りしましたよ。うちの茶葉は毎年茶摘みの時期に産地を訪ねて出来を見ながら買い付けていますし、そもそも当時の油谷製茶には焙煎機械が1台しかなく量産することができませんでした。
 
さすがに担当者の方も諦めるかと思ったら、また来られて。でも、お茶を作ってとは言わないんですよ。何回も来ては、ただお茶を飲んでいました(笑)
じゃあ、1回だけ作ってみようと思ったのは、ポッカサッポロの作った試作品を飲んだ時ですね。「もうちょっとこうすると味が変わってくる」「もっと良くなるんじゃないか」と自分も火がついちゃって。やるからには、お客様に喜んでもらえる商品を作りたい。本物に近いおいしさを絶対作るぞ、という気持ちになっていました。

ペットボトルならではの難しさがあった

「加賀棒ほうじ茶」の茶葉開発にあたって、はじめは急須にいれて飲む普通の茶葉のつもりで作りました。ところが、ペットボトルで飲むお茶は違うんですよね。味の軽さと言いますか……「加賀の棒ほうじ茶」ならではのすっきりとした味覚の特徴が出なかったんです
 
茶葉というのは浅炒りにすると水分量が多くなるため、うまく抽出ができません。もう少し味が濃くなるように、もっと香りが出るようにと、茶葉の配合を変えたり、碾茶(てんちゃ:抹茶の原料)を加えたり、焙煎の温度や時間を調整したり、何度も失敗しては試行錯誤を繰り返した結果、ペットボトルの抽出にとってベストというところにたどり着きました

左:焙煎後 右:焙煎前

火入れにマニュアルなんてない

棒ほうじ茶は高温で焙煎するほどおいしさが増します。うちでは直火と遠赤外線のダブル焙煎の機械を使っているため、他ではあまり考えられない超高温で焙煎することができます。ただし、ここで“焦がさないこと”が大事になってくるのですが、油谷製茶のある石川県は雨が多く湿度の高い地域。茎茶は含む水分が多く、焦がさずにパッと火入れができるので、渋味や苦味を抑えながら、コクや香りをより引き出すことができます
 
もちろん、茶葉の状態は季節によって変わりますし、火入れの温度にマニュアルなんてありません。ですから私は長年の経験を活かし、色や香りで見極めながら、火や遠赤の強さや弱さ、当たる時間や場所などを毎日細かく調整しています。ちょっとずれただけで味は変わってしまうので、気が抜けませんね。

待っていたのは量産への課題

茎茶の焙煎の見通しがついたもののこれで終わりではなく、今度はお茶を量産するために、ポッカサッポロの工場でも仕上がりの色や香りが同じになるように抽出しなければなりませんでした。ペットボトル入りのお茶はいわゆる工業製品ですが、お茶そのものは違います。工業製品ではないものを、工業製品にするのがとても難しかった。
 
大量生産するといっても、棒茶はそもそも茶葉全体から10%しかない希少な素材です。使える原料には限りがあります。均等に抽出できるようにするために、提供する原料の品質にもこだわりました。
 
実は当時、地元にはすでに「加賀の棒ほうじ茶」のペットボトル商品があったのですが、その味を超えたかった。私が出す以上は、絶対超えなければいけないと思っていましたね。

初心を忘れずに、おいしさを生み出し続けていく

商品が発売された後、今度は油谷製茶の「加賀棒ほうじ茶」の茶葉を作ることになったのですが、その際にパッケージをポッカサッポロの「加賀棒ほうじ茶」と同じものにさせてもらったんです。その茶葉を都内の百貨店で販売したら、多くの方に「知ってる、知ってる」と声をかけていただきました。
 
お茶って、飲んだ瞬間はおいしいと思っていただけるものの、すぐに売上が下がってしまうという声をよく聞きます。本当にその通りだと思いますが、ポッカサッポロの「加賀棒ほうじ茶」はリピーターがいてくれます。お客様が認めてくださっているということですよね。「お客様が喜んでくれる商品を作りたい」という想いが通じて、すごく嬉しいですね。
それに、「加賀棒ほうじ茶」の発売をきっかけに、加賀の棒ほうじ茶のお茶屋全体が盛り上がった。脚光を浴びたことで知名度も上がったと思います。
 
最近ですが、息子が油谷製茶の後継者として戻って来てくれました。今後は私の技術を全部教え込んで、間近で見て、触れて、覚えてもらい、より一層良いものを作ってくれるといいですね。
 
商品は売れないから終わりとは簡単にできないし、生産者として生み出し続ける難しさもあります。これからは息子と一緒に、初心を忘れずに、1回1回おいしいものをという気持ちを大事にしていきます。

お客様においしい商品を届けて喜んでもらいたい。その想いは、ペットボトル商品になっても決して揺らぐことなく「加賀棒ほうじ茶」に込められていました。商品について嬉しそうに語る油谷社長の笑顔が印象的でした。


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