土地の人の想いやこだわりをカタチにする【TOCHIとCRAFT】
日本各地の希少素材を使い、その土地の人々と一緒になって商品を作っていきたいという想いから、2019年に「TOCHIとCRAFT」は誕生しました。ただ素材を使うだけでなく、地域と連携し、生産者の想いやその土地が持つ文化も伝えていく「TOCHIとCRAFT」。
誕生までにどのような苦労があり、進化を遂げてきたのか。そして、これからどんなブランドに育てていきたいのかを、前担当の鶴谷さんと、現担当の肥後さんに話を聞きました。
紆余曲折でたどり着いた日本のおいしさ
鶴谷:私が無糖茶カテゴリーで定番商品を作りたいと考えたのは、2013年にポッカとサッポロが統合した時のことです。当時、ペットボトルの無糖茶市場の大半は緑茶商品でしたが、茶葉でお茶を飲む時にはさまざまな種類の無糖茶が飲まれていたので、緑茶以外の無糖茶商品に可能性を感じていました。
特に緑茶以外は海外茶葉を使っていることが多く、トレーサビリティの観点からも、生産者と話せる国産素材の茶葉で商品を作りたいと思い、着目したのが無糖茶として市場も大きかった「烏龍茶」でした。
鶴谷:国産素材を探すため、大手商社ではなく製茶工場に相談しました。小規模生産にしか対応できない希少素材を使用することで、他社が参入できない、ポッカサッポロにしかできないお茶づくりをしたいと考えたからです。
製茶工場の横のつながりにより、烏龍茶の国産茶葉のサプライヤーを静岡県で見つけることができました。ところが、いざ作ってみたものの静岡の茶葉だけではコクが出ず、思った通りの味わいにならなかったのです。そこで、烏龍茶に適した九州産の茶葉を使い、静岡茶葉と屋久島茶葉のブレンドで作ることにしました。
また、烏龍茶は特に発酵が難しく、味の決め手にもなります。国産素材で実現できるおいしさと感動をお客様にお伝えするために、茶葉はもちろん、発酵するための機械を開発するなどの製法や焙煎方法にも、製茶工場と一緒にこだわることができました。
こうして、2015年3月「にっぽん烏龍」が発売しました。海外産茶葉の烏龍茶は渋味があってとげとげしい印象を受けますが、国産茶葉で作ることで、コクはあるけどやさしい、まろやかな味わいの烏龍茶を実現することができました。
国産無糖茶に手応え。次は、ほうじ茶!
鶴谷:国産素材の無糖茶として、次に注目したのが「加賀の棒ほうじ茶」です。カフェインレスニーズの高まりで、小さい市場ながらも伸びている「ほうじ茶」カテゴリーに着目しました。そこで一番おいしいほうじ茶を探したところ、誰もが「石川県においしいほうじ茶がある」と言うので、加賀の棒ほうじ茶を取り寄せて飲んでみたんです。その味わいは、感動を覚えるほどでしたね。
早速、石川県に行き、油谷製茶さんと出会いました。大量生産に対してはじめは断られましたが、何度も通い、数量限定での協力を得ることができました。実際に販売すると取扱い店舗は少なかったのですが、北陸新幹線開通の効果もあって、すぐに欠品してしまうほど反響がありました。
はじめは疑心暗鬼だった油谷製茶さんもお客様からの評価に喜びを感じてくださり、本格的に取り組みがスタートしました。
商品を通して「つながり」をつくりたい
鶴谷:「にっぽん烏龍」、「加賀棒ほうじ茶」に続き、「富良野ラベンダーティー」、「知覧にっぽん紅茶」、「にっぽん麦茶」などを発売しました。
土地の人と一緒に作っていく中で、メーカーのいち商品としてだけではなく、いろいろな人の想いによって商品が大きく育っていると感じたのです。私は、土地と生産者の結びつきや、その土地の文化を掘り下げて多くの方に知ってもらうことで、地域貢献につなげていきたいと思うようになりました。
ちょうどクラフトビールやサードウェーブコーヒーなど、世の中的にも産地や生産者、手作り感が重視されていたので、地産地消ではなく地産多消によって地域の人たちに還元しようと考えたのです。
希少素材を求めて生産者の方とお話する中で、「自分の作ったものがどのような形でお客様に届いているかわからない」という生産者の悩みを聞くことがありましたが、一緒に商品を作り上げ、目に見える形になることで世の中ごとになったり、お客様から直接感想を聞いたりすることが、モチベーションアップにつながったという喜びの声をいただくこともできました。
「TOCHIとCRAFT」は地域の生産者や行政の人との活動を含めてプロジェクト化することで会社としてのSDGsの取り組みになっていきました。
大事なのは、価値をきちんと伝えること
肥後:私は「TOCHIとCRAFT」が誕生してすぐの2019年4月から担当になりました。当時の部長には、「生産者の想い、その土地の文化を一緒に考えながら商品開発をしてほしい。営業出身だからこその経験を活かして、多くの人たちと関わりながら「TOCHIとCRAFT」を作っていってほしい」と言われましたね。
担当者になって最初に取り組んだのは、商品ごとの価値を確認することでした。「TOCHIとCRAFT」は生産者や地域の方と一緒に作るという他とは違うブランドですが、まだ伝えきれていない価値があるのではないか。そう思い、商品を改めて見つめ直すために産地に向かいました。
産地では生産者の方に直接お会いし、各商品の伝えるべき大切なポイントを確認していきました。そして、商品の価値や特徴をもっと分かり易くお客様に伝える必要があると気付きました。
たとえば、「加賀棒ほうじ茶」は、香りと苦渋味が少なくすっきりした味わいが特徴です。それを伝えるため、香りのおいしさが伝わり、すっきりと感じられるパッケージにリニューアルしました。
私たちの商品ができるまでには多くの方が関わっていますが、生産者の熱い想いや商品がどうやって作られているのかをお客様に伝えきれてなかったことに気づきました。そのこだわりのストーリーをしっかり伝えることが必要であり、それがメーカーとしての役目であると考えるようになったのです。
地域の課題と向き合い、見えてきた使命
肥後:生産者の方は、原料にこだわりを持ち、手間をかけて作ってくれています。商品をリニューアルする時も、梨の果汁であればとれたて感を、夕張メロンであれば熟した味わいを、加賀棒ほうじ茶であれば華やかな香りを、どうすれば実現できるか一緒に話し合いながら追求してくださいます。その実直でひたむきな姿に、日本の食文化や農業への関心が強まりました。
生産者の方とやりとりをしていると、後継者問題やお茶を飲む人が減少しているなど、いろいろな悩みを相談されることも多くなりました。
たとえば、知覧茶はお茶のブランドとしてあまり知られていないという課題を持っていました。どうすれば広められるだろうか。JAや行政の方と考え、当時「知覧にっぽん紅茶」だった商品名を「かごしま知覧紅茶」に変え、パッケージに地図を載せることで、知覧が荒茶の産出量が高い鹿児島にあると知ってもらえるようにしました。
「北海道夕張メロンソーダ」も同じく、夕張メロンというブランドを大切にしたいという地域の想いを商品名に込めました。「伊達麦茶」の原料を作っている宮城県では、地元のこどもたちに六条大麦を知って欲しいという生産者の方々の想いを知り、商品を県内の「こども食堂」に提供するという取り組みを始めています。
「TOCHIとCRAFT」は地道に育っていると感じていますね。地域の課題について話し合い、一緒に取り組むことで地元の方が喜んでくれますし、全国的なメディアで紹介されると生産者の方からもすごく嬉しいという声をいただきます。皆さんそれぞれに抱えている課題や農業をやっている理由は違いますが、それに共感し、伝えることが私たちの使命だと思っています。
「一緒に作る」のその先へ
肥後:私たちは、その土地の人から原料を購入し、商品を作っています。逆に言えば、原料がなければ商品を作ることもできません。だから、土地を守るためにも、お客様を巻き込んで応援し、循環させる仕組みを作っていきたいと考えるようになりました。
これまでは「土地の人と一緒に作る」という考え方で生産者の方とポッカサッポロがともに商品を作ってきましたが、これからは「お客様と土地の人と一緒に作り、広げていく」という次のステージに進んでいきたい。
「TOCHIとCRAFT」をきっかけに生産者の方が住んでいる土地のストーリーに共感してもらい、地域のふるさと納税の返礼品や、商品を買っていただいた売り上げの一部を地域の活動に寄付するなど、広く多くの人に参加いただきながら地域を守る仕組みづくりをしていきたいですね。
また、個人的には、「TOCHIとCRAFT」のファンミーティングとか開催してみたいですね。生産者の方をお招きして、素材への想いやこだわりを語っていただき、お客様に商品のことを知ってもらい、もっと好きになっていただけたらうれしいです。
その土地にしかない素材、誇りを持ってものづくりに取り組む生産者の想いを商品に込めて、地域に寄り添った「TOCHIとCRAFT」の歩みは続いていきます。