レモン農家の先輩たちに助けられ、いざ、初植えから初収穫へ【自社レモン農園ができるまで/後編】
国産レモンの需要が高まるにつれ見えてきたのは、第一次産業が抱える生産者の高齢化や担い手不足という課題の数々でした。この課題を理解し、地域活性化や国産レモンの継続的な発展を目指すため、ポッカサッポロの「自社農園」という新たな挑戦が始まりました。
しかし、農業経験のない社員が一から農園をつくることは、想像以上に大変なことの連続でした。何もかもが初めてで、予測できないことばかりの日々。果たしてどんな苦労があったのか、どんな思いをもって取り組んでいたのか、土屋さんと髙寺さんに話を聞きました。
道を切り拓くため、自社農園メンバーに応募!
髙寺:会社としてレモン栽培に携わり始めたのは2016年のことで、当時、私は広島県とのパートナーシップ協定に基づき、大崎上島町にある試験農場でレモンと他の柑橘をかけあわせた品種の栽培を研究していました。
試験農場では研究ベースでレモンと向き合ってきましたが、これまでの研究成果をどう活かしていくかまだ見えていない状況だったんです。そういった中で、2019年に自社管理の本格的なレモン農園を開設するためのメンバーが社内公募され、国産レモン振興という取り組みを通して、これまでの研究成果を活かす道が拓けると思い応募しました。
何もかもが初めてで、わからないことだらけの農園作業
土屋:いざ自社農園に携わることになったものの、農業についての経験も栽培ノウハウもなく、本当にゼロからのスタートでしたね。私自身、家で木を育てたこともないくらいですし(笑)
ですから、最初にやったことは「教えてもらう」ことでした。地元のJAの指導員の方に協力していただき、1年半ほどかけて栽培について学びました。パワーショベルを運転して土壌を整えたり、草刈りをしたり、イノシシ避けのための柵を作ったりもしましたね。
こうして黙々と作業しているうち、カラスが鳴きだして、気づけば夕方になっていて……。農家さんの大変さを改めて実感できたのは自分にとって貴重な経験になりました。
髙寺:2019年に自社農園に植え付けしてからは、病気や害虫で苦労しましたね。葉っぱの色が悪くなって落ちていくたび、農家さんにアドバイスをもらっては試してみる、を何度も繰り返していました。また、これはレモン栽培に限ったことではありませんが、大雨で土壌が流れたり、寒波などの異常気象の影響にも悩まされました。
レモンは寒さに非常に弱いため、寒波の影響で木が弱ってしまっていたんですね。何とか枯れることなく春に花を咲かせたものの、夏につけた実が大量に落果してしまうことがありました。寒波の影響が時間差でやってくることもここで初めて知りました。日々、手探りで奮闘していました。
地元のみなさんと過ごす時間も、地域共創の大事な一歩
髙寺:初植えを終えた後、大崎上島町内にサテライトオフィスが開設されました。地元の方にご紹介いただいた一軒家の空き家で、5〜6人泊まれる広さがあり、現在は月の半分ほどこのサテライトオフィスに寝泊まりしながら作業しています。
自社農園を開設して3年ほど経ちますが、地元の方と交流させていただく機会もだいぶ増えました。サテライトオフィスにご招待して、地元の方からいただいた魚や野菜を調理してお食事をふるまったこともありますし、私は島の吹奏楽団に所属しているので、町のイベントで一緒に演奏させていただいたこともあります。
こうして地元の方とつながりを持てたことで、レモン栽培だけでなく、大崎上島町全体を盛り上げていきたいという思いが一層強くなりましたね。
やっとスタートラインに立った初収穫
土屋:初植えから約2年半の年月を経て、2021年12月、ついに初収穫を迎えました。「やった!」というより「良かった……」という安堵感の方が大きかったですね。ここに来るまでいろいろな苦労や、枯らしちゃいけないというプレッシャーとずっと戦ってきたので。
レモンの木は一度植えると30〜50年くらい実を採ることができるのですが、安定して採れるまでは10年ほどかかります。だから、自社農園はスタートラインに立ったばかり、まだまだこれからですね。
髙寺:初収穫は寒波の影響もあって予想より少ない収穫量でしたが、まずはほっとしたという気持ちです。収穫日には同じグループや研究所のメンバーが駆けつけてくれて、収穫を手伝ってくれたのも嬉しかったですね。初収穫したレモンはレモン果汁製品にして、お世話になった方々への贈答品としました。
髙寺:現在は、木の成長や開花に向けて栄養をたっぷり吸収できるように土を整えていて、今後は施肥や潅水しながらさらに木を大きくしていく作業になります。
地元のみなさんも木を見るたび「大きくなったね」「いい具合にできたね」と声をかけてくださるんです。これからも成長の喜びをみなさまと分かち合いながら、立派な木になるよう大切に育てていきます。
レモン事業を国内で引っ張っていくという使命から始まった、ポッカサッポロの「自社農園」。2022年4月には「国内産地形成」のための組織が新たに誕生し、これまでの知見と地域との絆を活かしながら、さらなるスピードアップが求められています。
食品メーカーでありながら企業として第一次産業に踏み込み、国産レモンの生産振興、地域共創を目指す取り組みがこれからどう成長していくのか。土屋さん、髙寺さんのふたりの“覚悟”が新たな実を結んでくれそうです。