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次世代へバトンを。独自製法を開発した匠が残したい技術と想い

当社の豆乳ヨーグルト商品は、原料となる豆乳を作るところからはじまります。(これを「原豆乳」といいます)大豆臭や青臭みを減らしたすっきりとした味わいの原豆乳は、独自製法である「おいしさ丁寧搾り製法」によるもの。これにより、くせがなく食べやすい豆乳ヨーグルトができています。
 
この製法を開発したひとりが、西村隆司さんです。今回の記事では、豆乳ヨーグルトの要となるすっきりとした味わいの原豆乳の製法を生み出した西村さんに、原豆乳のこと、そして課題として抱えている「技術継承」についてお話をお聞きしました。

西村隆司
ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社 研究開発本部 商品開発研究所所属(取材当時)
1986年不二製油株式会社入社。1997年、独自の豆乳生産技術(現おいしさ丁寧搾り製法)を開発。2015年、当社が不二製油のグループ会社であるトーラク株式会社から豆乳飲料と豆乳ヨーグルト商品の営業権を譲受し事業開始したのをきっかけに、2016年4月より豆乳や豆乳ヨーグルト製造の内製化に向けてノウハウを伝授するために当社に出向。

「大豆でおいしいデザートをつくりたい」という夢から始まった、無味無臭の原豆乳づくり

もともと豆乳ヨーグルトは、私が不二製油に在籍していた頃に、社長が語った「大豆を原料にしたおいしいデザートを作りたい」という夢から開発がスタートしています。
 
豆乳ヨーグルトの原料となる原豆乳づくりからはじめたものの、大豆特有の豆臭さや青臭さが出てしまうと、デザートに使うのは難しかった。おいしいデザートを作るためには極端な話「無味無臭の豆乳」を目指さなければならず、製造方法から工夫しなければなりませんでした。
 
「無味無臭」を実現するために、前例のない大豆の浸漬方法、粉砕方法、分離方法などを試し、試行錯誤を繰り返しました。現在は「おいしさ丁寧搾り製法」と名付けられているこの製法が確立された結果、大豆特有の豆臭さや青臭さが改善され、デザートにも使いやすい、すっきりとした味わいの原豆乳ができあがったのです。

事業譲渡を機にポッカサッポロへ出向して感じた、製法やノウハウ継承の難しさ

その後、私は事業譲渡を機に、2016年4月にポッカサッポロに出向することになりました。
 
しかし、当時のポッカサッポロは、常温保存ができる賞味期限の長い商品しか扱っていなかったため、冷蔵品で3週間しか賞味期限がないチルド品である豆乳ヨーグルトへの知見が全くない状態でした。
 
そこで、出向後は、原豆乳作り、豆乳ヨーグルト作りに関するあれこれを社内でのOJT(実務を通じて指導していく教育方法)や勉強会などを開いて少しずつ社内の理解浸透をはかりました。
 
様々な混乱がありつつも、2019年にはポッカサッポロ群馬工場に原豆乳、豆乳ヨーグルトを一貫製造できる新工場が新設され、くせのない豆乳ヨーグルトとしてお客様に手に取っていただけるようになりました。

出向した当初は私も期間限定のつもりでしたが、一緒に苦労した仲間への思い入れや使命感を感じて出向期間を延長することにしました。そうこうしているうちに、私は定年を迎える年齢に近づいてきました。
 
「おいしさ丁寧搾り製法」での原豆乳づくりには複雑な工程が絡みあっています。現場は日々忙しく、定期的に社内異動などもあるため、私の知見やノウハウを100%引き継ぐことが難しいことを課題に感じていました。
 
豆乳ヨーグルトの要となる原豆乳作りに関して本質(工程同士の繋がりや構造等)を深く理解している人がどれだけいるのか。今後のことを考えるなかで、「私がいなくなったあと、ポッカサッポロの原豆乳製造はどうなるのか」「私が会社を去る前にノウハウや技術を伝えておかないと何かあったときに聞く相手がいなくなってしまうのではないか」という不安がよぎり、後の世代に伝えておくべきことを少しずつまとめる作業を個人的に始めました。

AIを活用した技術継承プロジェクトに参加。そこで感じたこと。


そんなとき、DXを推進する部署から「AIを活用した技術継承プロジェクト」に参加しないかと声をかけていただきました。株式会社LIGHTz様(以下LIGHTz社)が持つ独自技術で思考を汎知化・可視化するという取り組みです。

数カ月間にわたりLIGHTz社から原豆乳を開発するまでのプロセスや原豆乳の製造工程、装置、製造ノウハウ、製造手順についてヒアリングを受け、頭の中にある経験や知見を言語化する作業を進めました。技術だけでなく、普段考えていることを言語化するのは自分の“ブレーン”を作るような感覚でとても新鮮でした。
 
その後は、ヒアリング内容をもとに現場学習ソリューションを作成。みんなで共有できるプラットフォームを構築し、私の頭の中にあった製造工程の背景にある原理原則、工程の運用方法等を理解できる仕組みを一部分整えました。現在は、完成度を上げるための手直しをしながら残りの継承作業を進めているところです。

この継承プロジェクトに携わって「業務に関わる個人の知識にかなり幅がある」ということに改めて気づくことができました。その原因は、業務自体の手順は覚えていても、「なぜこの手順が必要なのか」という根本の部分を理解できていないことが理由ではないかと考えています。
 
「なぜそうするのか」という理由まで理解できていなければ、人に教えることができませんし、応用を利かせることもできません。仕事が流れ作業のように感じてしまい、面白みもなくなってしまいます。「どうして」「なぜ」という理解を深めていくことで、体系的な知識を積み上げられ、能動的に取り組めるようになる。そういった人材を育成するためにも、知識やノウハウを継承する際には「どうして」「なぜ」の部分を丁寧に伝える必要があると改めて実感することができました。
 
新しいことを学ぶには時間的にも精神的にも余裕がなければいけません。現状、製造現場の人材配置やシフト制勤務のなかで、そういった時間を作るのは難しくはありますが、今回プロジェクトを通して作り上げたプラットフォーム・学習ソリューションで、「どうして」「なぜ」をすきま時間に確認できる状態を作ることができ始めているのは大きな進歩だと感じています。

「豆乳ヨーグルト以外の開拓につなげてもらいたい」次の世代に願うこと


私は、知識やノウハウを学ぶ際には「トラブルを経験すること」が大事だと思っています。一度トラブルを経験したら、「もう絶対に起こさないようにしよう」と思えるし、真剣に原因追及と対策を行うことで絶対に忘れない。なかには「失敗をするのが恥ずかしい」と考える人もいるのかもしれませんが、私はそういう経験こそ大切にしてほしいと思います。
 
質問することをためらう人もいますが、それはもったいない。今回の技術継承プロジェクトのAIは、すべての答えをくれるものではないからです。あくまで「わからないことがあったときの手助け」であり、わからないことを知るためには知識や経験がなければ質問すらできません。
 
そういった意味でも、製造現場の皆さんにはもっと私を使い倒してほしいです。私が在籍している間は、わからないことがあったときにどのような手段でもいいのですぐに質問してほしいと思っています。

技術継承は終わればゴールではなく、次の世代、また次の世代と活用されることが理想の形です。技術をしっかり受け継いでくれたら、どんどん改良・改善を進めて、より創造的で画期的なポッカサッポロ独自の原豆乳製造技術を確立し、進化を続けてもらいたい。それから、製造現場だけでなく、商品企画や研究所のメンバーにも広く知ってもらって、豆乳ヨーグルトだけでなく豆乳以外の商品の開拓にもつなげてもらいたい。
そんな未来を期待しています。
 


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